第4回眼科臨床機器研究会
日時:2003年11月29日(土) 15:00~18:00
会場:ヨコハマグランド インターコンチネンタルホテル
日眼専門医事業認定番号:12745
会長 清水 公也(北里大)
オーガナイザー 庄司 信行(北里大)
第4回眼科臨床機器研究会
日時:2003年11月29日(土) 15:00~18:00
会場:ヨコハマグランド インターコンチネンタルホテル
日眼専門医事業認定番号:12745
会長 清水 公也(北里大)
オーガナイザー 庄司 信行(北里大)
プログラム
1)ハイビジョンと眼科 座長/市邊 義章(北里大)
・超高感度HARP方式撮像管の開発とその応用
谷岡 健吉(NHK放送技術研究所)
・超高感度カメラを使った眼底検査 永野 幸一(北里大)
・超高感度高精細カメラの臨床応用 柳田 智彦(北里大)
2)コントラスト感度測定装置について
座長/魚里 博(北里大)
・コントラスト感度測定装置について 森田 勝典(㈱メニコン)
・CAT-2000の使用経験 小手川 泰江(北里大)
・コントラスト感度測定の臨床的有用性 根岸 一乃(慶應義塾大)
3)多局所ERG 座長/高野 雅彦(北里大)
・多局所ERG:どう録る、どう読む
島田 佳明(藤田保健衛生大)
・遺伝性網膜疾患と多局所ERG 近藤 峰生(名古屋大)
・多局所ERGによる網膜硝子体手術の評価 山本 修一(千葉大)
1)ハイビジョンと眼科
座長/市邊 義章(北里大)
テレビやカメラの高画質化は最近目にみえて進歩しています。テレビニュースで夜間撮影にもかかわらず人物や建物が鮮明に映し出されている映像をごらんになった方も多いと思います。これはNHK放送技術研究所で開発された超高感度高精細カメラによって撮影された画像です。このカメラを視機能障害のある患者さんに何とか応用できないだろうか?そんな素朴な疑問から北里大学とNHKとの共同研究が始まりました。
今回はその超高感度高精細カメラについて基本的な原理や開発のお話を、実際に撮影している方の立場から、またその臨床応用の可能性について各専門家にお話していただきます。
◆ 超高感度HARP方式撮像管の開発とその応用
講演者:谷岡 健吉(NHK放送技術研究所)
筆者は撮像デバイスの高感度化研究に取り組み、1985年、画質劣化を抑えた状態で高い感度を得ることができる撮像管光電変換膜の新たな動作法を発見した。これを基にHARP*とよばれる超高感度で高画質なアバランシェ増倍(電子なだれ増倍)型の撮像管を世界に先駆けて開発するとともに、今日までその一層の高性能化を進めてきた。図1に、この撮像管の動作原理を示す。アモルファスセレンの光電変換膜内で、電荷をアバランシェ増倍作用によってねずみ算式に増やすことで高い感度を得ている。写真1は、このHARP方式撮像管のカメラとCCDカメラとの月明かり程度の照明条件下における感度比較撮像実験の一例であるが、HARPカメラの感度の優位性が明確に現れている。
この超高感度HARPカメラは、医療診断の研究や深海探査、さらに今日ではバイオ研究での活用など、日本独自の超高感度撮像技術として放送以外の分野にもその応用が広がっている。
High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor
動作電界:約10⁸V/m
◆ 超高感度カメラを使った眼底検査
講演者:永野 幸一(北里大)
眼底カメラの照明光による羞明感は、時として被検者に苦痛を与えることになり、可能な限り低照度で撮影できることが望ましい。
現在市販されている眼底カメラは、Charge Coupled Device(CCD)が搭載できるものが主流となり、これまでのフィルムを使った撮影に比べ、感度が高い分、照明光量も少なくて済むが、被検者が実感できるレベルではない。
我々は、NHK放送技術研究所が開発した超高感度撮像デバイスHARP管を搭載したハイビジョンカメラを眼底カメラ(TOPCON TR-C50AX?)に装着して、低照度での眼底撮影を試みた。特に強い照明光が必要になる螢光眼底撮影に用いたところ、約82lx(観察照明3、ビデオ撮影のため観察光を撮影照明として使用した)でテレビモニター上充分観察できる画像が得られ、さらに青色域が高い分光感度特性を生かして、無赤光眼底撮影(490nm)を行なったところ、約32lx(観察照明1)で撮影できた。また、アンケート調査の結果、被検者の羞明感は従来の撮影に比べ、実感できるレベルまで軽減することが可能であった。
今後、撮像デバイスの更なる高感度化、小型 化により、操作性の向上が期待される。
◆ 超高感度高精細カメラの臨床応用
講演者:柳田 智彦(北里大)
超高感度高精細カメラを用いた無赤光眼底撮影、フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)を行い、緑内障、黄斑上膜、黄斑円孔等の眼底観察を試みた。無赤光眼底撮影では緑内障の神経 線維層の欠損、黄斑上膜や黄斑円孔術後における網膜面上、網膜浅層の状態が充分に観察可能であった。FAにおいても、患者の羞明感の訴えは少なく、網膜、脈絡膜の情報も従来と同程度に得られた。現在市販の眼底カメラに比較して低照度で眼底撮影可能なため、照明光による羞明感が少なく、患者の負担が軽減された点は今回の検討で最も有用であった。今後の臨床応用として、眼底撮影に限らず、瞳孔異常を呈する疾患の観察や、網膜色素変性症等の夜盲を訴える患者に対し、当カメラ用いた視覚情報の向上の可能性も検討していきたい。
2)コントラスト感度測定装置について
座長/魚里 博(北里大)
最近の眼科手術、特に白内障をはじめ各種屈折矯正におけるQOV(quality of vision)への要求度の高まりから、複雑な視覚系の客観的で臨床的な定量法が必要となってきている。従来からの視力のみならずコントラスト感度や低コントラスト視力もその重要性が益々高まり、臨床検査機器も数多く登場してきている。
今回、コントラスト感度測定装置のセッションでは、(1)各種測定装置の概説とCAT-2000装置の特徴を開発から普及に携わっておられる森田氏に、(2)CAT-2000の実際的な使用経験に基づいた留意点や特徴を視能訓練士の立場から小手川さんに、(3)臨床における有用性と意義等については 根岸先生に眼科医の立場から、それぞれ解説していただく。
◆ コントラスト感度測定装置について
講演者:森田 勝典(㈱メニコン)
コントラスト感度検査は、視力測定だけでは不十分な視機能を評価するものとして眼科領域で使用されるようになってきている。最近では、各種眼科手術の発展や 術後quality of vision(QOV)への高まりもあって、白内障手術や角膜屈折矯正手術の術前術後、視神経炎、眼底疾患、コンタクトレンズ等でより詳細な評価方法として重要視されて来ている。
現在使用されているコントラスト感度の測定装置で、印刷した視標を使用したものは比較的簡単に検査ができるため普及している。しかし、視標印刷濃度の管理やコントラストの経年変化、周りの照明による輝度の影響等問題があり、既存の測定装置では正確なコントラストを保つことが問題になると思われる。
そこで、新しい方式によって安定したコントラストを再現できる『コントラスト感度視力検査装置CAT-2000』を開発したのでその機能及び特長を紹介する。
◆ CAT-2000の使用経験
講演者:小手川 泰江(北里大)
現在、白内障手術や角膜屈折矯正手術や弱視治療の視機能評価には、コントラスト感度検査が多く用いられています。従来の装置の多くは、印刷された空間周波数の縞視標を用いていているため測定輝度に結果が影響を受けやすく、縞視標を用いているため患者の理解が難しい事が挙げられます。
しかし今回メニコン社から新しく開発されたCAT-2000は、背景輝度が一定で純粋に視標コントラストのみを変化させることができ、安定した条件下での低コントラスト視力の測定が可能です。視標は、ランドルト環視標を用いているため高齢者や小児の理解が得やすく、患者の訴えを短時間で客観的に評価でき臨床的に有用な機器となっています。また、指標コントラスト100・25・10・5・2.5%での遠方視、近方視、昼間視、薄暮視、周辺グレア負荷といった多様な条件下での視力検査が可能となっています。
このような多様な機能と共に、CAT-2000の実際の測定方法や測定上注意するべき点について 言及させていただきます。
◆ コントラスト感度測定の臨床的有用性
講演者:根岸 一乃(慶應大)
日常臨床において、矯正視力は良好にもかかわらず見づらいと訴える患者は多い。このような見え方の質、Quality of Visionを定量化する手段の一つとしてコントラスト感度測定が用いられる。コントラスト感度測定とは光学・通信理論の分野において空間的な明暗コント ラストの2次元周波数応答を表す伝達関数として用いられている空間周波数特性(modulation transfer function; MTF)を視覚系に応用したものである。
実際には各空間周波数ごとに視標が示され、おのおのの空間周波数のコントラスト感度閾値を測定する。視標は通常縞視標であるが、広義には、対比視力のように文字視標やランドルト環を用いているものもある。
今回は代表的なコントラスト感度測定法について、その意義と臨床的有用性について述べたい。
3)多局所ERG
座長/高野 雅彦(北里大)
多局所ERG(Multi-focal Electroretinogram)は、従来の全視野刺激ERG とは異なり、疑似ランダム刺激を用いて局所ERGを複数個とり、各エレメントの応答をトポグラフィックに描出出来る電気生理学検査である。特に他覚的黄斑 部検査法として有用であり、従来のERGでは検出されず、本装置を用いなければ診断出来ない特殊な黄斑部疾患も報告されている。本邦では、ベリス(VERIS; Visual Evoked Response Imaging System)の名前で知られており、黄斑部の異常を3Dカラーマップにより視覚的にとらえ易く表現されている。しかしながら、本装置で得られる網膜応答 の解釈は決して容易ではない。
今回は、多局所ERGについて著名な専門家3名に講演をお願いして、検査の実際から診断まで、十分にマスター出来ることを目標においた。さらに、多局所ERGの眼科臨床における重要性について掘り下げてみたい。
◆ 多局所ERG:どう録る、どう読む
講演者:島田 佳明(藤田保健衛生大)
多局所ERGは検査ですか ら、原理の理解よりもどのように役立てるかが大切です。
しかし、多局所視覚入力の技術はもともとERGを記録するために作られたものではないこともあって、臨床で使うには記録方法を工夫・改良する余地が沢山あると思います。またよく見られる、多局所ERGの偽陽性、偽陰性の所見には、多局所視覚入力の仕組みに根ざしているものが多いのです。
(1)合理的な記録と、(2)誤りのない結果の解釈に必要な、臨床医のための「多局所ERG記録 装置の働き」を解説したいと思います。
◆ 遺伝性網膜疾患と多局所ERG
講演者:近藤 峰生(名古屋大)
本講演では遺伝性網膜疾患を中心に、多局所ERGが診断に有用である疾患群について具体的な症例を示しながら解説する。
多局所ERGが診断に有用な代表疾患はoccult macular dystrophy(Miyake et al, 1996)である。眼底も蛍光眼底造影も正常で、網膜全体から記録する通常のERG(full-field ERG)も正常であるが、黄斑部の局所ERGは著しい振幅低下を示し、多局所ERGは本疾患の診断の鍵となりうる(Piao et al, 2000)。また最近、錐体ジストロフィーの中に網膜周辺の機能が主に障害されるタイプのものがあることもわかってきた(peripheral cone dystrophy)。この疾患の網膜機能障害の空間的特徴も多局所ERGで明瞭に示される(Kondo et al, in press)。また、Stargardt病の初期で眼底の変化が軽度である場合には、蛍光眼底造影とともに多局所ERGが診断に役立つ。
非遺伝性の網膜疾患で多局所ERGが診断に有用な疾患として、AZOOR(acute zonal occult outer retinopathy)が挙げられる。AZOORは眼底の変化なく急性の網膜性暗点をきたす疾患群である。広義にはAIBSE、MEWDS、AMN、 MFC、PICなどもこれに含まれ、多局所ERGを用いないと診断できない例が多い。
◆ 多局所ERGによる網膜硝子体手術の評価
講演者:山本 修一(千葉大)
これまで黄斑部視機能の電気生理学的評価を目的として数多くの手法が開発されてきたが、広く臨床応用されるには至っていない。多局所ERGは反応の局所性に問題はあるものの、その信頼性の限界を承知し、若干の手間ひまを惜しまなければ、黄斑部の他覚的視機能評価に活用することができる。
網膜硝子体手術の機能面での評価はほとんど視力のみに頼っているが、それが不完全であることは日常臨床で経験するところであり、多局所ERGを用いることにより別の側面からの評価が可能となる。これまで裂孔原性網膜剥離、黄斑円孔、糖尿病黄斑浮腫、網膜中心静脈(分枝)閉塞症などの手術前後で多局所ERGを記録し、黄斑部視機能の電気生理学的評価を試みており、その結果について紹介したい。