5回眼科臨床機器研究会


日時:2004912日(土)  14:3017:30

会場:パシフィコ横浜 5F小ホール(B会場)


合同開催:第40回日本眼光学学会、第19回眼科ME学会

日眼専門医事業認定番号:12745


会長 清水 公也(北里大)

オーガナイザー 庄司 信行(北里大)


プログラム


<メインテーマ:新しい視野計の評価>


1)FDTMatrix

FDTの原理と緑内障性視野異常の予測         高橋 現一郎(東京慈悲医大)

・スクリーニングツールとしてのFDT活用法

                                                    中野 匡(東京慈恵会医科大学 眼科)

FDTからMatrix                                     藤本 尚也(千葉大学 眼科)


2)フリッカー視野計

・フリッカー視野の原理と特徴      松本 長太(近畿大学医学部眼科学教室)

・フリッカー視野の臨床における活用と評価

                                               奥山 幸子(近畿大学医学部眼科学教室)

・緑内障、高眼圧症患者に対するOctopus自動フリッカー視野計の使用経験」

                                                   谷野 富彦(西鎌倉谷野内科眼科医院)


オーガナイザー/庄司 信行

                         (北里大学医療衛生学部視覚機能療法学)

1988    新潟大学医学部 卒業

1988    東京大学 医学部眼科

1991    武蔵野赤十字病院眼科

1997    武蔵野赤十字病院眼科 副部長

1999    北里大学医学部 講師

2000    北里大学医療衛生学部 助教授

2002    北里大学医療衛生学部

               および大学院医療系研究科 教授

過去4回の眼科臨床機器研究会では、毎回3つずつの異なるテーマを取り上げ、それぞれのセッションで独立した講演を組んでいた。しかし今回は、多少趣向を変えて、「新しい視野計の評価」という1つテーマのもと、前半にFDT視野計、後半にフリッカー視野計を取り上げることにした。

FDT視野計は、ある一定の条件で白黒の格子縞を反転させることによって生じる錯視現象を応用したものである。これまでにも様々な研究・報告がなされ、職場検診や疫学調査にも実際に応用されている。さらに近年、視標の呈示部位などを見直すことによって開発されたMatrixという次世代の視野計も使用可能になった。

一方、フリッカー視野計は、その研究自体は古くから行われていたものの、実際に市販されるようになったのはごく最近であり、オクトパス視野計の新しいモデルに内蔵されるようになった。その報告はまだ限られているが、早期視野異常の検出が可能とも言われ、今後の検討が期待される。しかし視標の提示方法が従来の明度識別視野とは異なるため、検査への理解度が結果に大きく影響してくることも考えられる。

ある意味では、両機種とも今後の発展が期待される検査機器であるわけだが、今回は、それぞれの視野計にお詳しい計6人の講師をお招きし、研究成果を発表していただく。最後に、両機種の比較も含めて、新しい2つの視野計の有用性や問題点などを討論してゆきたい。


1FDTMatrix


FDTの原理と緑内障性視野異常の予測

講演者:高橋 現一郎(東京慈恵医大)

 

1986    東京慈恵会医科大学卒業

1998    東京慈恵会医科大学眼科学教室講師

2002?2003   Discoveries in sight lab,

                          Devers Eye Institute留学

2003    東京慈恵会医科大学眼科学教室講師
日本緑内障学会評議員

Kellyにより1966年に報告されたFrequency doubling現象は、低空間周波数の縦縞白黒反転正弦波を高時間周波数で呈示すると、空間周波数が2倍に見えるという錯視現象であり、後にMaddessJohnsonらによりFrequency doubling technologyFDTperimetryとして臨床応用された。この現象は、網膜神経細胞の比較的大きなMagnocellular pathwayを介しているとされており、緑内障の初期に、この大きな神経節細胞が障害されると言われていることから、特に緑内障の初期変化の検出に有用であると報告されている。

 本講演では、通常の視野検査である明度識別視野(増分閾値検査)とは異なるFDTのメカニズムにつき最近の知見を解説し、それに伴う測定時の注意点にも触れたい。更に、測定時間の短縮を目的として採用された閾値決定法についても概説する。また、より高い視野異常の検出を目指して視標の大きさを10度から5度に小さくし、Humphrey視野計の24-230-2)プログラムと同等の検査点での測定を可能とした新しい視野計Humphrey Matrixのプロトタイプの視野計による緑内障性視野異常の予測能についても合わせて報告する。


◆ スクリーニングツールとしてのFDT活用法

講演者:中野 匡(東京慈恵会医科大学 眼科)

 

1987年 東京慈恵会医科大学卒業
1989
年 東京慈恵会医科大学助手
1995
年 神奈川県立厚木病院眼科医長
2001
年 東京慈恵会医科大学助手

緑内障の視野判定といえば、これまでゴールドマン視野計による動的視野検査や、ハンフリーやオクトパス視野計に代表される自動視野検査が主に用いられてきたが、最近ではFDT視野計、フリッカー視野計といった新しい検査装置も徐々に普及してきている。なかでもFDT視野計はこれまでにない測定時間(スクリーニング検査は正常者で片眼約35秒)の短縮を実現し、特にスクリーニングツールとしての有用性が期待されている。さらに従来の光弁別閾値と異なる錯視現象(Frequency Doubling Illusion)を用いた検査原理により、選択的にM細胞系の反応を検出するとされ、既存の視野計より緑内障の早期診断に有効である可能性が報告されている。しかしながら臨床の場に登場して6年あまりとまだ歴史が浅いため、事前におこなった実地医家の先生方へのアンケート調査からも、その使い方に関してはかなりばらつきがあることが確認された。

今回この新たな選択肢として注目されるFDT視野計の有効な活用法について、日常臨床において先生方が日ごろ疑問に思われている問題点をふまえ、従来の視野計との併用法や各種プログラム(スクリーニング検査と閾値検査)の使い分け、視野異常の判定法、および使用上の留意点などに関し、おもにスクリーニング検査を中心に私見を述べる。


FDTからMatrix

講演者:藤本 尚也(千葉大学眼科)

 

1982年 千葉大学医学部卒業
1993
年 米国ウエインステイト大学医学部眼科留学
1995
年 千葉大学医学部講師
2000
年 千葉大学医学部助教授

25Hz白黒反転フリッカー刺激を用いたfrequency doubling technology (FDT)が緑内障スクリーナーとして開発され、従来の視野計では検出できない異常検出を可能にした。しかし、視標サイズが10度と大きいため、中心10 度以内の詳細が評価しにくかった。この解像度を上昇させたHumphrey Matrix (Matrix)が近年開発された。18Hzのフリッカー刺激、5度視標サイズで、Humphrey視野計(HFA)と同様の視標配置となった。緑内障眼では異常検出はHFAより広く、中心10度以内はほぼ同等の異常検出であった。再現性は良好であった。また10度以内を詳しく測定するプログラム10-212Hz2度視標)ではHFA10-2と同様な異常検出であった。高眼圧症において、Matrix PSDおよび3点連続した暗点でFDTと同様に20-30%異常検出した。MatrixFDTと同等の異常検出で、より中心部の異常検出できる有用な視野計となる可能性がある。



2)フリッカー視野計


◆ フリッカー視野の原理と特徴

講演者:松本 長太(近畿大学医学部眼科学教室)


1983    近畿大学医学部 卒業

               近畿大学医学部眼科学教室 入局

1985    近畿大学医学部大学院

1989    多根記念眼科病院

1990    近畿大学医学部眼科学教室 講師

1998    The Johns Hopkins Hospital,

               The Wilmer Eye Institute 客員講師

1999    近畿大学医学部眼科学教室 助教授

フリッカー視野とは、検査視標にフリッカー光を用いて行う視野検査の総称である。フリッカー光には大きく分けて、視標on off時の輝度(コントラスト)、点滅の頻度(周波数)の2つの要素がある。フリッカー視野には、このコントラストを一定に保ち周波数を変化させcritical fusion frequency (CFF)を求める方法と、周波数を一定にしてコントラスト閾値を求める方法がある。我々は、Octopus1-2-3、ならびにOctopus 311自動視野計を用いて視野計のもつLED視標にてフリッカー刺激を作成し、閾上呈示でCFF値を視野の各部位で求める自動静的フリッカー視野測定を開発してきた。高周波数フリッカー光はMCell系の機能を反映すると考えられ、緑内障の早期診断に優れることが知られている。眼底所見には、網膜神経線維層欠損が認められていても、一般的な明度識別視野では異常が検出できない極早期の緑内障症例を対象に検討を行なったところ、これらの症例でもすでにCFF値の低下が認められている。さらにCFFを指標とすることでコントラスト感度に影響をおよぼす白内障などの中間透光体の影響を受けにくいという他の視野検査法にはない優れた特徴を有する。

本シンポジウムでは、このフリッカー視野の測定 原理とその臨床的特徴について述べる。


フリッカー視野の臨床における活用と評価

講演者:奥山 幸子(近畿大学医学部眼科学教室)

 

1988年 山梨医科大学 医学部 卒業

1994年 近畿大学大学院 医学研究科 修了

1994年 近畿大学 医学部 助手

1997年 近畿大学 医学部 講師

我々は10年以上にわたり、視野内の各測定点におけるcritical fusion frequency (CFF)を測定する自動フリッカー視野測定法の開発・改良と臨床応用を行ってきた。フリッカー視野は適切な応答を得るために被検者の十分な理解を必要とし、明度識別視野に比べて測定値の変動幅も大きい。従って、個々の測定結果の評価には慎重さを要し、フリッカー視野のみで視野の評価と経過観察を行うことには無理がある。

しかし、緑内障眼では明度識別視野に比べてより早期に測定値が低下しやすく、その早期診断や進行の早期検出に優れるという利点がある。また、明度識別視野やその他の視野測定と比べて白内障など中間透光体混濁の影響を受けにくいため、白内障を合併した緑内障眼の経過観察や白内障術前の視機能評価などにおいてその有用性は大きい。明度識別視感度とCFF値との関係は白内障以外においても病態により異なる場合があり、こうした異種の視野測定法を組み合わせて測定することが、視機能障害の原因となっている病態を鑑別する糸口になる可能性がある。これらのことについて臨床例を交えて示す。

現在我々は臨床でのフリッカー視野測定には、正常確率に基づくスクリーニング法である4ゾーン法を用いている。本シンポジウムでは、本法とMatrixの スクリーニング法による測定結果をROC曲線で比較した結果も示す予定である。


◆ 緑内障、高眼圧症患者に対するOctopus自動フリッカー視野計の使用経験

講演者:谷野 富彦(西鎌倉谷野内科眼科医院 副院長)

 

1987    慶應義塾大学医学部 卒業
1987
    慶應義塾大学医学部眼科学教室 入局
1990
    日本赤十字社足利赤十字病院 眼科医長
1991
    国立小児病院(現 国立成育医療センター)眼科
1994
    慶應義塾大学医学部眼科学教室 緑内障外来責任者
2004
    西鎌倉谷野内科眼科医院 副院長

               慶應義塾大学医学部眼科学教室 共同研究員

緑内障では明度識別視野で異常が検出された時点で視神経の約50%が障害されていることが報告され、より早期に視野異常を検出する目的で近年種々の視野検査法が導入されている。Octopus自動視野計(INTERZEAG社)に搭載されたフリッカー視野は中心30度内の各部位におけるフリッカー融合頻度を求めるもので神経節M?cell系を評価でき緑内障の早期診断に期待されている。

 中心フリッカー融合頻度(CFF)は疲労により閾値が上昇することが知られているが、まずフリッカー視野の信頼性を検討した。健常者5名を対象に右眼、左眼、右眼、左眼の順に連続して各眼3回、計6回測定した。フリッカー視野の平均検査時間および全視野の平均融合頻度に変化はく、フリッカー視野の短期変動は非常に少なく、安定した融合頻度測定が可能であると考えられた。

次に緑内障、高眼圧症患者を対象にフリッカー視野を使用し、Humphrey視野計(HFA)と比較検討した。対象は高眼圧症9例、緑内障14例である。フリッカー視野はTOPプログラムを利用したものを用い、HFAはプログラムC30?2にて測定した。緑内障眼においてHFAで異常を検出できなかった3眼の半視野にフリッカー視野では異常を検出した。また、高眼圧症眼においてHFAは全例正常で、フリッカー視野異常は8眼(100%)であった。

以上よりフリッカー視野によりHFAで検出されない初期の視野異常を短時間に検出できる可能性があると考えられた。


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第5回眼科臨床機器研究会(2004年9月12日)

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